省エネ性能を決めるのは、テナントの意向と事業性

落合洋平氏(新日鉄興和不動産 ビル事業本部 運営管理部長)
聞き手/小原 隆=省エネNext編集長  

省エネ基準への適合義務化の対象になる中規模オフィスビルの独自ブランドを展開する新日鉄興和不動産。省エネ性能に関しては、テナントが求める水準を、事業性の範囲内で確保する考えだ。今後は、それを引き上げる可能性もあり得るという。

落合洋平氏
落合 洋平|Yohei Ochiai 2001年興和不動産(現新日鉄興和不動産)入社後、ビル事業本部プロパティマネジメント部および営業統括部を経て、2009年技術管理部副部長、10年技術管理部長、14年運営管理部長、現在に至る(撮影:大久保 惠造)

 

— 中規模ハイグレードオフィスビル「BIZCORE(ビズコア)」の展開を昨年からスタートさせています。

中規模ながら耐震性能を高め、BCP対応やセキュリティーなどに配慮し、大規模ビルと比べても遜色ありません。外観は白のフレームをアクセントに存在感ある全面ガラスで統一し、エントランスホールは空間の上質さを備えています。

省エネ性能はエネルギー消費性能基準(省エネ基準)を標準としながら、一定の事業性の中でそこからさらに15~20%程度の削減に努めています。

ビルの性能を考えるとき、何より重視するのは、テナントが求めるものは何かという点です。テナントに選ばれるビルでないと、当社としては開発しても意味がありません。省エネなどの環境配慮を事業性とどうバランスさせるかという点には常に苦慮しています。

 

— 大規模開発プロジェクトになると、事情は違ってきますか。

そうですね。一例として、2017年9月にオープンした赤坂インターシティAIRをご紹介しましょう。

このビルはワンフロアの賃貸面積が約780坪です。これだけの規模になると、テナントは上場企業クラスで環境意識も高いところが想定されます。それらの企業では、省エネ性能もビルを選定するうえで重要な要素の一つです。環境配慮の詳細についての質問を受けることもあります。

 

— 省エネ性能に関する目標は何か定めていたのですか。

市街地再開発事業でもあり、基本計画段階から「環境計画方針」を定め、「環境性能目標」を策定しました。緑化率、PAL(建物の断熱性能)、ERR(設備の省エネ効率)など、各種目標値を設定し、その達成のための省エネ手法を採用しています。

目標指標は、東京都における、二酸化炭素(CO2)排出量の「総量削減義務と排出量取引制度」を基に定めました。そこで示されている認定基準を参考に、「優良特定地球温暖化対策事業所(トップレベル事業所)」の水準を目指しています。

赤坂インターシティAIR
赤坂インターシティAIR(東京都港区)。省エネに関しては、①地域冷暖房の供給区域を広げ、プラントを新設し、エネルギーを相互に融通②空調でエネルギー使用量に応じた課金制度を採用③外気温を冷やすのに冷水に加え中温冷水も活用し、それらを作るエネルギーを約27 % 削減――という特徴を持つ(撮影:新日鉄興和不動産)

 

赤坂インターシティAIRの省エネ効果のイメージ画像
赤坂インターシティAIRの省エネ効果。左のグラフは、一次エネルギー消費量を一般的なビルと比べたもの。約35%の省エネが見込まれる。右のグラフは、省エネ効果をもたらす要素を、「建築的工夫」「熱源・空調・換気・衛生」「照明・その他」の3つの区分ごとに並べ、それぞれの貢献度を比べた(出所:新日鉄興和不動産)

 

選ばれるビルを開発

— どの程度のレベルを目標に置くか、将来は変わり得ますか。例えば、先ほどご紹介された「BIZCORE」の設計基準を見直す可能性はありますか。

あります。例えばテナントがビルを選定する判断軸において環境配慮やエネルギーコストなど環境性能を重視するようになれば、私たちも考え方を変えざるを得ません。

「BIZCORE」のような中規模ビルの場合、テナントがビルを選ぶ判断基準におけるコストの重みが大規模ビルに比べ増します。省エネ性能の向上が、テナントが負担するエネルギーコストにどの程度跳ね返るか、定量的に示されるようになれば、テナントのビル選定も変わっていくでしょう。

BIZCORE(ビズコア)
新日鉄興和不動産は省エネ基準以上を標準とする「BIZCORE(ビズコア)」を展開している(撮影:新日鉄興和不動産)

 

「BIZCORE神保町」の外観とエントランスの写真
シリーズ第一弾「BIZCORE神保町」の外観とエントランス。ガラス張りの外観はシリーズ統一で、省エネ基準への適合性判定をクリアする必要からLow-E複層ガラスを採用した。2019年3月には赤坂見附に、同7月には築地に、第二弾、第三弾が完成する予定(撮影:新日鉄興和不動産)

 

— ほかにも、テナントの判断軸が変わることは考えられますか。

意識が大きく変わる契機になるのは、技術革新です。新しい省エネ技術が誕生すれば、その技術が採用されているビルなら入居したい、とテナントが希望するようになることも考えられます。私たち事業者は、社会環境を見極め、事業性や社会的責任など、さまざまな要素を考慮し、設計基準においても見直すべきところは柔軟に対応していきます。

 

— 省エネ性能の向上を目指し、容積率の特例が用意されています。誘導措置として機能していきますか。

いまの制度ではまだ不十分です。もっと思い切った容積率の特例があれば、事業者の判断も異なると思います。床面積が増えて事業性に見合うという判断を下せるようになれば、私たちも省エネ性能の向上へ、これまで以上に踏み込んだ姿勢で臨めると思います。

 

(日経アーキテクチュア「省エネNext」公開のウェブ記事を転載)


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