明るく開放的なZEB テラル本社事務所棟(前編)

 ポンプ・送風機メーカー、テラル(広島県福山市)の本社は、農地や事業所、住宅地が混在する地域の一画に位置する。敷地内には、本社工場や事務スペースが入る既存棟が並ぶ。延べ床面積1963.4m2、2階建て鉄骨造の新しい本社事務所棟は、100周年記念事業の一環として、敷地の南側のエリアに既存棟の南側へ接続させる形で建設した。1階はショールームや会議室、2階は執務エリアとなるネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)だ。


テラル本社事務所棟の南東側外観(写真:小林 浩志)

 このうち執務エリアの南と東の2面は、床から天井まで全開口とした。ガラスサッシから少し離れた室内側に、細長い長方形断面を持つ柱が並ぶ。外観も室内側も柱の存在感を抑え、明るく開放的な印象の執務空間とした。日射は建物の庇(ひさし)と外付けフィン、室内のブラインドで調整し、井水(地下水)熱を利用した放射冷房とカーペット床から染み出す暖房で室内の温熱環境を整える。


テラル本社事務所棟2階の執務エリア。南面と東面は床から天井までの開口とした(写真:小林 浩志)

 「単なる省エネルギーだけでなく、快適な執務環境を目指した。ZEBにすると開口の少ない閉鎖的な建物になりやすいが、ここでは明るい空間としながらZEBを実現できた」。設備計画の面からプロジェクトをけん引したテラルの今別府眞一ソリューション技術部部長は、そう胸を張る。増築部のZEBランクはNearly ZEBとなった。

 

 太陽光発電と太陽熱集熱をはじめとする創エネルギーのシステムを用意。1次エネルギー消費量(その他エネルギー消費量を含まず)の削減率は、創エネを除いて53%、創エネを含めると75%となる(いずれも環境省「ZEB実現に向けた先進的省エネルギー建築物実証事業」申請時の数値)。その後の設計調整で、創エネを含めた削減率を77%まで引き上げた。

 

 設計は、プランテック総合計画事務所(東京・千代田)の大阪事務所が担当した。テラルからの主な要望は、工場内に分散していた部署を集約し、1階にショールームを設けること。「『水と空気で未来を創る』という同社の企業理念をベースに意匠計画を進め、水や風、太陽など自然エネルギーを活用した省エネ設備を盛り込んだ」と、プランテック総合計画事務所の鈴木涼チーフアーキテクトは話す。

 

井水と太陽熱を空調熱源に利用

 

 最も大きなエネルギーを費やす空調は、井水と太陽熱を冷温熱源に用いて効率的なシステムを構築した。太陽熱は、屋上に設置したパネルを通じて集熱し、8m3の貯湯槽を持つ太陽熱蓄熱槽を介して冬期には暖房の熱源に、夏期には除湿を行うデシカントローターの乾燥にそれぞれ用いる。十分な太陽熱を得られない日は、バックアップ用のエコキュート(ヒートポンプ式給湯器)を使用する。

 

 冷暖房の仕組みはこうだ。ショールームや会議室が入る1階では、井水熱源ヒートポンプエアコンによる冷暖房を採用した。執務エリアとなる2階では、より快適な環境を得るために天井と床面を利用した冷暖房方式を取り入れた。

 

 主な冷房は、インテリアゾーン(建物の中央部)の天井に設けたパネルを用いた放射冷房で賄う。井水で18℃に冷やした熱源水を放射パネルに通し、パネル表面を20℃程度に冷やすというイメージだ。さらにペリメーターゾーン(建物の外周部)ではデシカントローターで除湿した空気を窓際のチルドビームに送り、ここで室内空気と熱交換した上で天井から窓ガラス面へと空気を落として窓回りの熱負荷を減らす。

 

 暖房は、ヒートポンプマルチエアコンから床下に送る暖気を利用する。エアコンの熱源は井水と太陽熱だ。井水で熱交換して11℃から16℃に温めた熱源水を、さらに太陽集熱で21℃に温める。

 エアコンからの暖気は、床下空間を断熱材で区切ってペリメーターゾーンとインテリアゾーンを分けて室内に送り出す。その際、ペリメーターゾーンでは床の吹き出し口を利用するのに対し、インテリアゾーンではカーペット床から染み出させる方式を採用した。テクネット(東京・中央)の販売するシステムで、カーペットの繊維の隙間からゆっくりと暖気が室内側へ抜けて、穏やかな頭寒足熱の状態を生み出すという。床の空調は、冷房の立ち上げ時にも活用する。

 

 放射冷房を採用する際には、パネル回りの結露を防ぐための湿度管理が欠かせない。そこで、冷房時には除湿(デシカント)のローター、暖房時には全熱交換器機能を担うマルチモードローター空調機(荏原実業製)を設置した。「ローターの回転数を変化させることによって1台で2つの機能を満たすようにしたもの。国内で初めての採用事例だ」(今別府氏)。前述したように、除湿を行うデシカントローターの乾燥にも、太陽熱を利用している。


自然エネルギー利用システムのイメージ図(資料:テラル)

 太陽のエネルギーは、その他の設備でも活用した。

 

 太陽熱集熱パネルは、1階の来客用トイレの給湯にも利用する。「太陽熱給湯によって、1次エネルギー消費量を2%程度削減できる。これは、『創エネを除く1次エネルギー消費量の削減率50%以上』というZEBの基準を達成するための最終的な調整に役立った」と今別府氏は話す。

 

 太陽光発電システムは屋根の上に出力57.75kWのパネルを設置した。屋根はコストなどの制約から軽量な非歩行用の仕様にしている。構造上の負担も勘案して、太陽熱集熱パネルと合わせて最大限可能な数量を載せた格好だ。101.2kWhのリチウムイオン蓄電池と組み合わせて天候が悪い日でも電力を安定供給できるようにした。電力は基本的に本社事務所棟で利用し、余った分は工場棟で使う。

 

 2018年11月の完成から19年6月まで8カ月の消費電力量は、計算値の6万9445kWhに対して実績値は約25%減の5万2332kWhだった。計算値は、建築環境・省エネルギー機構が取りまとめたエネルギーシミュレーションツール「The BEST Program」で算出したものだ。「中間期と冬期は良い結果を得た。このあと夏の実績がどうなるか」と今別府氏は期待を寄せる。

 

テラル本社事務所棟の建築概要データ

•所在地:広島県福山市
•地域区分:6地域
•建物用途:事務所等
•構造・階数:鉄骨造・地上2階建て
•延べ面積: 1963m2(既存部との合計3001m2)
•発注者:テラル
•設計者:プランテック総合計画事務所
•施工者:大林組、ダイダン 、きんでん
•完成:2018年11月

 

(日経 xTECH「省エネNext」公開のウェブ記事から抜粋)

 


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