省エネ建築はまず外皮、次に設備 ZEB最前線(前編)

ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)が徐々に増えてきた。しかし、ZEBを手掛けた経験のある設計者や施工者、発注者はまだ少ないのが実情だ。普及に向けた方策は何か。ZEBロードマップ フォローアップ委員会で委員長を務める早稲田大学創造理工学部建築学科の田辺新一教授に聞く。

田辺 新一(たなべ しんいち) 早稲田大学創造理工学部建築学科教授 1958年福岡県生まれ。
80年早稲田大学理工学部建築学科卒業、84~86年デンマーク工科大学、92~93年カリフォルニア大学バークレー校。2001年から早稲田大学創造理工学部建築学科教授。専門は建築環境学。東京都環境審議会前会長、空気調和・衛生工学会会長、日本学術会議会長(写真:都築 雅人)

 

—— ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)ロードマップ フォローアップ委員会は、2018年5月に「ZEBロードマップ フォローアップ委員会 とりまとめ」を公開しました。これまでの経緯を教えてください。

2014年4月に閣議決定した「エネルギー基本計画」で、日本におけるZEBの目標が示されましたが、当初はZEBの定義が明確ではなかったため、経済産業省資源エネルギー庁のZEBロードマップ検討委員会で定義の検討が行われました。この学術的基盤となったのは、空気調和・衛生工学会の空気調和設備委員会ZEB定義検討小委員会が作成した「ZEBの定義と評価方法」です。

空気調和・衛生工学会が提案した評価方法には、運用時の評価も含まれていますが、これはクルマの燃費と一緒で、運転者によって良くもなれば悪くもなる。それを保証することは難しいため、国は「ZEBの定義と評価方法」の設計時評価を抽出し、設計時点で一定の性能を担保していればZEBを認定する仕組みをつくりました。

建物の完成後に規定通りの運用を行えば性能が確保できるよう、建築研究所がホームページなどで公開している計算支援プログラムはやや厳しめに設定されています。ZEB実証事業の33件の集計データを見ると、実際、設計値より10%以上もエネルギー消費量が減っています(下のグラフを参照)。建築側からすると望ましい結果といえますね。

 

設計値と実績値の年間一次エネルギー消費量の集計。申請目標(設計値)の達成度とその要因の把握を行うことを目的に、2018年度にZEB実証事業の実施状況報告を行なった補助事業を対象に「各補助対象建築物全体のエネルギー使用量の計測データ」と補助事業者による「省エネルギー効果に対する自己評価」を分析した(資料:環境共創イニシアチブ)


ただ、現時点では計算支援プログラムでは評価されない未評価技術が多い。これらはいくら省エネ効果や費用対効果が高くても、ZEBの要素技術として普及しづらいのが現状です。

そのため、空気調和・衛生工学会ではZEB実現に有効な未評価技術をアンケート調査し、実証事例や評価ロジックを収集する予定です。また、計算支援プログラムで評価済みの技術でも、導入か非導入かだけで安易に判断するのではなく、段階的に効果を評価すべきものもあると考えています。

 

年間一次エネルギー削減量の達成率と「達成」の要因。分析対象はエネルギー計算手法が「平成25年(2013年)基準」以降の経産省ZEB実証事業27件(事務所8件、老人・福祉ホーム7件、病院4件、百貨店3件、マーケット2件、官公庁、旅館、体育館など各1件)。対象建築物全体のエネルギー使用量(電力、ガス、灯油など)の従量およびBEMSによるエネルギー計測データを集計。計測期間は2017年4月1日~18年3月31日(資料:環境共創イニシアチブ)

 

空気調和・衛生工学会も「外皮重視」

—— 空気調和・衛生工学会の評価方法では外皮性能も重視しています。  

空気調和・衛生工学会は建築設備の学会なので「設備偏重」と見られがちですが、建築出身の研究者も多く、外皮性能の向上についても重視する傾向にあります。同学会が提唱するヒエラルキーアプローチの設計概念でも、建築物の外皮性能の高度化は、設備の高度化より上位に置いています。

外皮の性能が上がると、設備容量を最適化しやすくなり装置は小さくなるので省エネが進みます。同時に快適性も高まります。設計者はそれを理解していると思いますが、半面、外皮性能のイニシャルコストを省き、安く建てて、設備で外皮の低性能をカバーしようとする考え方が残っている可能性も否定できません。

かつて、オフィスビルの外皮はシングルガラスで十分と考えられていました。その理由は、執務空間はパソコン、プリンター、照明などの内部の発熱が高く冬季も冷房が必要で、熱を外に逃がしたほうが合理的だったからです。

しかし、以前は20W/m2程度だったOA機器の発熱が現在は10W/m2以下。照明は、普通蛍光灯で20W/m2くらいがHf蛍光灯で15W/m2程度になり、直近では発光ダイオード(LED)+調光で3W/m2以下という事例もあります。

電力消費量が少なくなると発熱も減る。冬季には室内の気温が低くなるため、設備で省エネを頑張っても、外皮性能が低いと窓際や壁際は寒いために電気ストーブを設置して対処するなど、何のために省エネをしているのかわからないケースも出てきました。

省エネを進めるほど、外皮性能の高度化は重要になります。設備は更新できますが、外皮は簡単に変えられないですからね。

外皮基準の指標としては顕熱で計算するPAL(パル=Perimeter Annual Load)が規定されていましたが、2013年に新しい指標のPAL*(パルスター)に移行しました。
 

—— PALがPAL*に移行した経緯と、違いについて説明してください。  

建物内で外気の影響を受けない室内中心部は「インテリアゾーン」、外壁に近く外気に接する壁際部を「ペリメーターゾーン」と呼びます。PALは年間熱負荷係数で、このペリメーターゾーンの年間の冷暖房負荷の総量と考えてください。

通常、設備設計では冷暖房設備は最も暑い・寒い日、場所を想定して選びますが、これで年間運転すると普通の日は設備性能が過剰になり、効率が悪くなります。それを防ぐには、特に外気や日射からの影響を受けやすいペリメーターゾーンの冷暖房負荷を小さくする必要があります。つまり外皮性能が重要になるわけです。ダブルスキンやエアフローウインドウ、Low-Eガラスの採用などでPALは小さくなります。

これまで、PALの指標は長く用いられてきましたが、省エネ基準の見直しで2013年に「一次ネルギー消費量」だけを指標とした省エネ性能を評価する基準に改正されました。これに対し、一次エネルギーだけが指標になるなら、外皮は劣悪でも高性能の空調設備を設置したり太陽光発電パネルを載せたりすれば省エネになるので、それでは不合理だとする声が上がりました。大学でも省エネには外皮性能の向上が不可欠と教えていましたから。

結局、外皮の熱性能に関しては1999年の省エネ基準相当が引き継がれることになり、PALの評価も続けることになりました。その上で計算支援プログラムの計算法に合わせ、提案されたものがPAL*です。

PAL*では潜熱負荷を含めた全熱計算になりました。しかし、ガラスは除湿しませんし、ファサードにブラインドやカーテンを付けると顕熱は削減できても湿度には関係ありません。そのためPAL*の数値は、設計者の感覚と合わないのではないかと私は危惧しています。

英国では大規模な建築物は一次エネルギー消費量だけで評価されますが、中小規模は遮蔽係数と熱貫流率でも基準を設けています。
 

—— 大規模な建築物は設備的な工夫で対処できても、中小規模になるほど外皮の影響が大きいということですね。  

その通りです。

欧州は気流を嫌う傾向にあるので、オフィスビルでも日本のような対流空調の採用は多くありません。そこで発展したのがチルドビームや放射パネルを用いた放射空調でした。

最近、日本で放射空調が注目されているのは、先に述べたように照明やOA機器の発熱が減り、同時に外皮の性能が高くなったことと無関係ではありません。一昔前の日本のビルは200W/m2クラスの冷却性能の機器が導入されていましたが、放射パネルの冷却能力は70W/m2程度です。放射空調を生かすためにも熱負荷軽減と外皮性能は重要なのです。
 

—— LEDは電力消費削減で注目されていますが、発熱が低くなることにも意味があります。  

ダブルカウントできますからね。既存ビルでは早く器具変更したほうがいいです。新築に関しては、2011年の東日本大震災後の電力消費削減の機運の中、OA機器の省エネとLED化が進んだことで、建築の自由度はかなり向上したと思います。(後編に続く)

左が田辺氏、右が小原隆=省エネNext編集長(写真:都築 雅人)

(日経 xTECH「省エネNext」公開のウェブ記事を転載)

 


 

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