景観を楽しむZEB 前田建設工業「ICIラボ エクスチェンジ棟」(前編)

 前田建設工業(東京都千代田区)が建設したICI総合センター(茨城県取手市)内の「ICIラボ エクスチェンジ棟」は、年間の1次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスになるZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)だ。太陽エネルギーに加え、地域で得られる水や風も活用して省エネ化を図った。

 

 関東鉄道常総線の寺原駅南口を降りると、前田建設工業ICI総合センターICIラボの入り口が目の前にある。ICIラボは、同社が東京都練馬区に設けていた技術研究所を取手市に移転して2019年2月に開設した。建設会社の技術研究所という役割にとどまらず、ベンチャー企業をはじめとする「共創パートナー」と共に進めるイノベーションの場として位置付けているのが特徴だ。自社の技術者約80人のほか、共創パートナーの作業スペースも用意している。

 

 ICIラボの建物群は、人工池「水景(アクアガーデン)」を囲むように立つ。執務スペースを集約した「エクスチェンジ棟」を中央に置き、その東側には、大空間に実験施設を並べた「ガレージ」2棟を配置。西側には、木造平屋建てのリフレッシュスペース「ネスト棟」を設けた

 

南面に太陽光発電パネルを設けた「エクスチェンジ棟」。左に平屋建てのネスト棟、右に見える渡り廊下の先にガレージ2棟が並ぶ(写真:前田建設工業)

 

ICI総合センターICIラボの全景。建物の中央に水景(アクアガーデン)を配した。掘削土を盛り土状の緑地にしたり、既存樹木を生かした里山を設けたりするなど地域の自然環境にも配慮した(資料:前田建設工業)

 

 このうち地上3階建てのエクスチェンジ棟では、省エネルギー化に注力した。BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)で正味のZEBを達成。建築に対する国際的な環境性能評価システム「LEED V4 BD+C(ビルディングデザイン&コンストラクション)」の新築版では、最高評価のプラチナ認証を国内で初めて得た。建築環境総合性能評価システム「CASBEE」のSランクも取得している。

 

内外に電動ブラインドを設置

 「この地域は地下水が豊富で、希少な種類の植物も多く残っている。自然豊かな敷地環境を生かしながら、自然と調和した環境づくりを図った」。設計を手掛けた前田建設工業建築事業本部ソリューション推進設計部BIMマネージメントセンターの綱川隆司センター長は、エクスチェンジ棟の計画の狙いをそう語る。ポイントは、太陽に加えて風や水といった自然エネルギーを積極的に活用した設計だ。

 

 太陽エネルギーを効果的に利用するため、直方体のエクスチェンジ棟を南北軸に正対して置いた。東西からの低い日射を遮るために、階段室やトイレなどをまとめたコアを建物の東西に配置して開口を最小限にとどめ、南北面を大きく開いた。

 

 「ZEBは開口が少ない建物になるというイメージがある。しかしここでは我慢する閉鎖的なZEBではなく、景観を楽しみながら、生産性の高い活動ができるように考えた」(綱川センター長)。南面の開口部には内外に電動ブラインドを設け、外の眺めを確保しつつ日射を制御した。夏は外付けのブラインドを用いて日射の入り込みを防ぎ、冬は内付けのブラインドを用いて昼光を取り入れつつ日射熱を取得する。

 

 建物の外皮では、外壁に厚さ80mmの硬質ウレタンフォームを吹き付け、窓にはLow-E複層ガラスを使用するなどして断熱性を高めた。Low-Eガラスには日射を遮るタイプと取り込むタイプがあるが、ここでは外付けブラインドで日射を遮っているため日射取得型を採用している。

 

 太陽光発電パネルは、屋上の110.7kW分のほか南面外壁にも21.6kW分を設置した。南面では、水景による太陽光の反射の効果も期待している。発電した電力は全て、ICIラボ内の施設で自家消費する。

 

 自然換気の活用でも一工夫を施した。敷地が高台に位置しているため強い風が吹くが、その方向は一定でない。そこで南面と北面に設けた大開口の両端を袖壁状に突き出してウインドウキャッチの機能を与え、ガラリ窓を通して風を効果的に取り入れるようにした。北東と南西の対角線上に設けた階段室を風の通り道として利用し、階段室の上部から空気を排出する。

 

 井水は、冷暖房の熱源に活用した。「年間を通じて水温がほぼ17度と安定している井水から採熱し、外気処理空調機や天井の放射パネルなどへ回している」(前田建設工業建築事業本部設備設計部設備第3グループの今林憲一グループ長)。

 

 井水の熱を利用した冷暖房は全体空調と個別空調を組み合わせたアンビエント(全体)・タスク(個別)方式を導入し、省エネと快適性の確保の両立を図った。アンビエント空調は、主に天井面からの放射で行う。天井パネル内に冷温水を流すタイプと膜天井を使った空気式を採用した。タスク空調の吹き出し口は足元に設け、利用者が足でスイッチを入れると空気が出るようにしている。

 

3階の執務スペース。天井パネルに冷温水を通して行うアンビエント放射空調と、足元の吹き出し口を用いたタスク空調を組み合わせた。床の吹き出し口は、OAフロアのコンセントにはめ込む着脱式としている(写真:前田建設工業)

2階の執務スペース。膜天井を用い、空気式の放射空調を採用した(写真:前田建設工業)

ZEB化に用いた主な要素技術。外皮の高断熱化に加え、画像センサーを用いた照明の自動制御、燃料電池排熱や太陽光発電パネル下の熱も利用した空調など、多様な技術を組み合わせた(資料:前田建設工業)

 

消費電力量は太陽光発電量の3分の2

 

 再生可能エネルギーを含めた1次エネルギー消費量削減率は100%(再生可能エネルギーを除くと同51%)となり、正味のZEBとなった。稼働後の実測値でも、2019年度の消費電力量は太陽光発電量の3分の2程度に納まっている。

 

 前田建設工業はさらに、隣接地にある廃校になった小学校の建物を買い取り、19年11月に研修施設「ICIキャンプ」としてオープンさせた。新型コロナウイルス感染症の影響で本格的な運用は後ろ倒しになったが、ICIラボと合わせ、外部と連携した研究や人材育成の支援を進めていく予定だ。エクスチェンジ棟で発電した電力も、いずれICIキャンプと電力融通することを視野に入れている。

 

2019年度の消費電力量の推移。消費電力量の合計は、太陽光発電量の3分の2程度に納まった(写真:前田建設工業)

 

建築概要

ICIラボ エクスチェンジ棟

 

所在地:茨城県取手市

地域区分:5地域

建物用途:事務所

構造・階数:免震RCS造(柱RC・梁S造)・地上3階建て

延べ面積:2122.2m2

発注・設計・施工者:前田建設工業

完成:2018年9月

 

(日経クロステック「省エネNext」公開のウェブ記事から抜粋)

 

 


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